不倫中の独身女性は、相手の男性の言葉のはしばしから妻の像をあれこれ思い描く。
ふたりでデートしている時に妻について多かれ、少なかれ、男性はしゃべる。
妻をほめたたえる男性はいない。
メチャクチャにけなす男性はいる。
ほんのちょっと誉めて、多くをけなす男性が大半だ。
女性は努めて冷静に聞いている。
その時は風が吹き抜けた気でいる。
しかし、その風が落としていった砂は、あとから女性の心に沈殿して不快感を残す。
側にいるのに、遠い。
これくらい淋しくてせつないことはない。
だったら、ひとりになったほうがいいと思うようになる。
「指輪はずしてよ」。口が裂けたって絶対に言わないと誓っている言葉。
食事をしながら、ナイフにライトが反射する光より、指輪の鈍い光のほうが女性の胸にはこたえる。
男性の左手が動くたびに、銀の指輪の軌跡を感じる。
結婚してるんだな、この人。
何度も脳裏をよぎる。
結婚してるからってなんなのよ。
もうひとりの自分がそっと囁く。
左手のリングを無視して、付き合いが始まる。
女性はいつも妻から見られているような気がする。